作業療法士さんに聞く~よくある発達相談シリーズ~【第2回 着替え】
ぴあっとメンバーの作業療法士きゃりーです。普段は総合病院で、お子さんのリハビリにも携わっています。
発達がゆっくりなお子さんや、凹凸のあるお子さんは、手先が不器用なことが多く、日常生活や学校生活でのお困りごとについて、相談されることがよくあります。
よくご家族から寄せられるご相談を、「よくある発達相談シリーズ」と題しまして、作業療法士としての知識と経験から、皆さんにお伝えできればと思います。
第2回のテーマは『着替え』についてです。
着替えはなぜ難しいのか?
着替えには色々な工程があります。
Tシャツを着る場面を、想像してみてください。
- 服の前後・左右を判断する
- えり・袖の位置を判断する
- 頭から被って、えりには頭を、袖には手を通す
このように様々な判断が必要になってきます。
しかも着る前と着ている最中では、Tシャツの見え方も変わってしまい、それがさらに混乱を招きます。
これらには空間認識の能力や自分の体に対するイメージ(ボディイメージ)などが関わってくるため、発達がゆっくりなお子さんや凹凸のあるお子さんが苦手としていることがよくあります。
またボタンやファスナーの操作など、両手を使った細かい作業も必要となります。
着替えが難しいのは、このように様々な能力が求められるからです。
上衣(トップスなど)の着替えの方法
着替えの難易度は、上衣の種類によっても変わります。
比較的着やすい上衣は、半袖Tシャツやかぶりタイプのパジャマです。
半袖Tシャツは袖に手を通しやすいですし、パジャマはゆったりしていて、伸縮性もあるものが多く着やすいです。
上衣を着る時、多くのお子さんは、頭から適当にかぶって、袖から適当に手を出すので、服の前後・左右が逆になることが多くあります。
服の前後・左右を判断することが苦手な場合には、まずは服の前面にお気に入りのキャラクターなどが描いてある、半袖Tシャツで練習しましょう。
服の前面にキャラクターの絵などが描いてあれば、前面であることがわかりやすくなります。前面がわかれば、前面が下を向くようにひっくり返して、床やテーブルに広げて置きます。
そのままひっくり返した状態で、すそから頭と手を入れて、えりから頭を、袖から手を出せば、服の前後・左右がずれることを防ぐことができます。
えりから頭を出す時には、両手で服を下に引っ張るとよいです。片手で引っ張ってしまうと服が回転してしまい、袖の左右が反対になってしまうことがあるためです。
着替えに必要な空間認識、ボディイメージの発達を促す練習
空間認識能力の発達を促す遊びには、ブロックや積み木など、3次元で物を操作する遊びや、アスレチックなど空間の中で体を使う遊びなどがおすすめです。
またお人形の着せ替え遊びでは、着替えの様子を客観的に見ることができるので、着替えのイメージがしやすくなります。
お母さんやお父さん、兄弟の着替えを手伝ってもらうのもいいですね!
自分で着替えていると見えない背中も、お人形やご家族の着替えであれば見えます。
背中は普段自分で見ることができないため、イメージするのが難しいことが多いです。
トイレの時に「お尻がうまく拭けない」というのも、自分では見えないところの操作だからです。
また背中をはじめ、自分の体のイメージを高めるためには、お風呂で自分で体を洗ったり、背中に指で絵や文字を書いて当てるゲームをしたりすることも効果的です。
着替えは工程が多いため、実際の練習では、最初から最後までお子さんにしてもらうのではなく、最後の工程をお子さんにやってもらうことで、「自分でできた!」という達成感を得やすくなります。
例えばご家族が、服の前後を判断した上で頭を通してあげた後に、本人に袖に両手を通してもらいます。
それができるようになったらご家族が服の前後を判断して本人に渡し、本人に頭と両手を通してもらう。
それができたら、本人に服の前後を判断してもらい、頭と両手を通してもらう、といった具合です。
まとめ
今回は着替え、特に上衣を着るときのことについてお話しました。
着替えは、服の種類や大きさ、ボタンやファスナーの有無によっても難易度が変わります。
服を1サイズ大きめにするだけでも、着脱しやすくなりますよ。
お子さんの状態によって、着替えやすい服をご家族が選んであげたり、お子さんが着替えるのが楽しくなるような、好きな柄の服を一緒に選ぶなどしても良いですね。
現役の作業療法士で、2児の母。
総合病院でお子さんのリハビリに携わっている。
最近体力の衰えをヒシヒシと感じている。
趣味はもの作り全般で、仕事にも活かされている。