作業療法士さんに聞く~よくある発達相談シリーズ~【第1回 お箸の持ち方】
ぴあっとメンバーの作業療法士きゃりーです。普段は総合病院で、お子さんのリハビリにも携わっています。
発達がゆっくりなお子さんや、凹凸のあるお子さんは、手先が不器用なことが多く、日常生活や学校生活でのお困りごとについて、相談されることがよくあります。
よくご家族から寄せられるご相談を、「よくある発達相談シリーズ」と題しまして、作業療法士としての知識と経験から、皆さんにお伝えできればと思います。
第1回目となります今回は『お箸の持ち方』のご相談についてのお話です。
お箸はなぜ難しいのか?
お箸で食べ物をつまむ時、基本的には下の箸を固定させた状態で、上の箸だけ動かして使います。
また食べ物によっては、つまむだけでなく、すくう、切る、集めるなどの使い方も必要となり、動かし方も変わってきます。
お箸を持つとき、一般的には、上の箸を親指・人差し指・中指で持ち、下の箸は親指の付け根と薬指で固定するように持ちます。
このように、それぞれの指がそれぞれの動き方をしますし、指先の感覚を使って力加減を調整するため、手の機能や発達が十分でないと、握り箸になったり、交叉箸になったり、上手に使うことが難しくなります。
お箸の練習は何歳から始めるのがいいか?
子育てや教育関係のサイトによると、お箸の練習を始める年齢は3~4歳が多いようです。
私も二人の子どもを保育園に預けた経験がありますが、3歳児クラスから始めていたように記憶しています。
しかし大事なのは何歳から始めるか、ということではなく、手がお箸を使うのに十分に発達しているか、ということです。
手の発達が十分でないと、間違ったお箸の使い方を覚えてしまい、また一度覚えてしまったものは修正が難しくなります。
お箸の練習を始める時期を見極めるポイントとして、私は普段、以下のことをチェックしています。
- チョキができるかどうか
- 色鉛筆が上手に持てるかどうか(手の平が斜め下を向いた状態で3本の指で持てるか)
これらはどちらも、親指・人差し指・中指と、薬指・小指がバラバラに動かせるかどうかを見ています。
バラバラに動かせないと、2本の箸をそれぞれうまく操作することができず、握り箸などになってしまいます。
お箸の練習方法
では実際にお箸を持って食べてみましょう!・・・となると、うまくいかなかった時に、お子さんのお箸に対する苦手意識がどんどん強くなり、使うことを嫌がったりすることがあります。
まずはお箸を1本だけ、親指、人差し指、中指で持ち、動かす練習をお勧めします。
この時大切なのは、薬指と小指は動かさないことです。
他の指と一緒に動いてしまいそうなら、反対の手で軽く押さえてもいいと思います。
こちらのサイトに指の位置などわかりやすく説明していましたので、参考にご紹介します。
また練習としては、お箸1本を持って、そのお箸の先でテーブルの上のビーズを刺して移動させるなどの遊びなどがいいと思います。
箸1本を動かすことに慣れたら、実際に2本の箸を使いますが、まずは箸先を机につけて、開閉する練習を行います。
それができたら、2本の箸を使ってぬいぐるみにご飯をあげる、などの遊びを通して練習すると、お子さんも楽しんで練習できると思います。
最後に食事場面で練習を始めますが、「3口だけ箸で食べる」「このお皿だけ箸で食べる」など、無理強いせずに少しずつ導入するといいと思います。
お箸の練習を始める時期を見極めるポイント①②がまだ難しいお子さんは、まずは遊びの中で指をバラバラに動かす練習を取り入れてみましょう。
たとえば、ジャンケンで遊ぶ、指を折って数を数える、親指・人差し指・中指の3本指でビーズをつまんで箱に入れるなど、遊びの中で取り入れるといいと思います。
またお絵描きの時に、上手に鉛筆が持てるように誘導してあげることもいいと思います。
塗り絵は、細かい部分を塗るものの方が、指の細かい動きの練習になります。
練習に適切なお箸とは
それでは、実際にお箸の練習をする際に、どういったお箸が適切なのでしょうか?
適したお箸の長さは、親指と人さし指を直角に開いたときの親指と人差し指の距離の1~1.5倍と言われます。
今は色々なタイプのトレーニング箸や道具が市販されていて、どれを選べばよいか迷うことがあります。
指を入れる輪がついているお箸、箸先が開きやすいようにバネがついているお箸、2本のお箸をピンセットのように固定する道具など、いまや100円ショップでも見つけることができます。
どのタイプのお箸がよいかというのは、お子さんの状態によりますが、気を付けたいポイントがあります。
お箸の動かし方は、箸先を閉じるときに指を曲げて、箸先を広げる時に指を伸ばしますが、指を伸ばした場合でも指がお箸から離れることはありません。
お箸に指を入れる輪がついている箸の場合、持つのが安定するため、使いやすいという方も多いのですが、箸先を広げる際に輪を利用して開くために指が箸から離れてしまうお子さんが時々います。
このような使い方を学習してしまうと、いざお箸を使おうとした際に、お箸から指が離れてお箸が滑ってしまい、上手に使えないことがあるため、そのような使い方になってしまっている場合には、お箸のタイプを変更した方がいいかもしれません。
もし市販されているトレーニング箸がなかなかうまく使えなかったり、チョキや鉛筆の操作が難しい場合には、リハビリ場面でよく紹介している「箸ぞうくん」という箸がありますので、一度HPも確認してみるといいと思います。
うちの息子も手先に不器用さがあり、現在も箸ぞうくんを愛用しています。
一般のお箸に比べると高価ですが、使い始めて比較的早く、食事場面で使えるようになりました。
また滑りづらいようで、けっこう小さなおかずもつかめています。
まとめ
シリーズ第1回目としてお箸についてお届けしました。
お箸の操作はとても難しい作業の1つです。大人でも、一般的に正しいと言われる持ち方ではない方が多くいます。
大切なのは、「自分でできた」「楽しくできた」ということです。
正しいお箸の持ち方にこだわりすぎず、スプーンやフォークも使いながら、無理なく練習してみてください。
そして自分で食べられたことを、たくさん褒めてあげてくださいね。
現役の作業療法士で、2児の母。
総合病院でお子さんのリハビリに携わっている。
最近体力の衰えをヒシヒシと感じている。
趣味はもの作り全般で、仕事にも活かされている。