【体験談】水たまりの種

雨の日の種まき
雨の中、いつも通り息子と一緒に登校していた際の出来事である。
息子は現在小学3年生で、支援級に在籍している。
晴れた日より、登校にかなり時間がかかりながらも、もうすぐ学校に到着、という頃。息子が突然立ち止まり、さしていた傘を内側からぽんぽんと叩き始めた。

傘についた水滴を落とそうとしているのかと思った自分は、「傘に水がついてるのが気になるのかい?」と声をかけた。ところが、息子からは予想外の返事が返ってきた。
「水たまりの種をまいてるんだ。」
水たまりの種…?
何のことかわからず、息子に説明を求めた。
息子によると、「水たまりの種(傘についた水滴)を地面にまいておくと、新しい水たまりができて、だんだん大きくなる」とのことだった。
ああ、なるほど、大好きな水たまりを増やしたいということか…と何となく合点がいった。
通学路のミッション
息子は、水たまりに入ることが大好きである。
小雨の日や、既に雨が上がっている日でも、水たまりを堪能するためだけに長靴を履いていこうとするほど、水たまり好きである。

そんな息子は、家から学校までの通学路で、どうやら「すべての水たまりに入る」と決めているようである。
登校中、ゆっくりゆっくりではあるものの、水たまりに入りながら順調に進んでいる、と思っていたら、突然Uターンして、来た道を戻り始めるため、何がどうしたのかと、当初は自分が慌てふためいていた。

「え、どうした!?何で戻るの?学校は反対方向だよー!?」と伝えるものの、息子は聞く耳持たずに道を引き返して行く。ところが、しばらく戻ると、また学校に向けて進み始めるのである。
よくよく見ていると、道の右側を進んでいた場合、左側にある水たまりにも入りたいため、少し進んでは引き返し、「道にあるすべての水たまりに入る」ことを繰り返しながら歩いているようだ、ということがわかった。

なるほど、全部の水たまりに入りたいのか…と息子の目的がわかってからは、母も落ち着いて見守ることができるようになった。
息子はなぜ来た道を引き返すのか、一体どこまで、何度戻るのか…。理由がわからないままでは、学校に到着する時間がどんどん遅れるし、とにかくやめさせなければ、と考えていたかもしれない。
しかし、理由や目的がわかると、「全部の水たまりに入れば前に進めるし、まぁいいか」と、こちらも気長に待てるようになった。
息子を含め、自閉症の人々の一見不可解に見える行動にも、おそらく理由や目的があり、行動の理由や目的を知ることは、お互いにとって非常に重要だと実感した出来事だった。
水たまり選手権
さて、息子は全ての水たまりに入って、パシャパシャ歩き回りながら、「水たまり選手権」なるものを開催しているそうである。審査基準を聞いてみたところ、単に「大きい」「深い」水たまりが勝ち、という単純なものではないらしい。
息子が気に入っているかどうか、というところが大きなポイントだと思われるが、そこまで詳しくは説明してくれないため、実際のところは謎である。
審査員長(息子)の厳正なる審査の結果、「この水たまりが優勝!」と、本日の1位が決まった。
息子に招待され、自分もその水たまりの中を一緒に歩き回ることとなった。
もちろん自分も長靴で、万全の態勢である。
しかしながら、ご満悦の息子に対し、水たまり初心者の自分には、良さがさっぱりわからなかった。
今後、それぞれの水たまりの良さを、審査員長にじっくり教わってみたい。

小学4年生の息子と夫の3人家族です。
息子には発達障害(自閉症)・知的障害・睡眠障害があります。
3歩歩かずとも何でも忘れがちです。
生き物とミニチュアが好きです。