【体験談】写真なんて撮られたくない!

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写真撮影の壁

現在中学3年生の息子は、1歳半健診の時に視線が合わない、発語が無い、呼んでも反応しないなどの様子からASD(自閉スペクトラム症)の傾向があると言われ、2歳から療育等の発達支援を受けています。

3歳頃までは撮影でカメラを向けても無反応、目線も合わない。カメラのレンズや画面が気になってしまい、構える母の手元を覗き込んでしまうので、本人の姿を映すどころの騒ぎではありません。

4歳を過ぎた頃に、ようやく明るくひょうきんな性格を発揮し、母がカメラを向けると姉を押しのけ、我先にとカメラの前で笑顔でポーズを決めるようになりました。

やっと増えてきた彼の表出。どんな表情も愛しくて、記録に残せるようになって本当に嬉しかったのを覚えています。


そんな息子が写真に写ることを初めて拒否したのは小学校3年生の終わり頃。放課後、支援級の先生から『○○(息子)くん、集合写真を撮っている時に急に泣き出してしまい、教室から飛び出してしまったんです。』と電話で知らせを受けました。

心配になって、彼に理由を尋ねると『ぼく、ちゃんと笑ってるのに『笑って』って何度も言われたんだ。』と答えました。

それを聞いてすぐに何が起きたのかわかりました。息子は改まった場面で撮影の為に笑顔を求めると、自然な表情を作ることが難しいのです。

普段もカメラを向けると、理想の笑顔を作ろうとするあまり一生懸命に目を細めて口角を力いっぱい引き上げようとします。

しかし理想通りの笑顔にはならず、実際はまぶしさを感じでいるかのような閉じた目と、力を込めすぎて頬がこわばり真一文字に結んだ口元が現れるのです。

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きっとこれを見て、周囲の大人が息子に『笑って!』と声を掛けたのでしょう。

息子からすれば『ぼくはもう笑ってるのに』『これ以上どう笑えばいいの。』『ぼくの笑顔は変なんだ』と、そんな不安が頭の中で駆け巡り、結果パニックを起こし飛び出したのです。

泣きながら『ぼくって変なの?』と尋ねてくる息子を見て、悲しさや悔しさでいっぱいになり、その時は『そんなことない。お母さんはあなたの笑顔が大好きだよ。』となだめる言葉しか出ませんでした。

撮影拒否

その日を境に息子はカメラに映ることを避け、少しでもカメラが自分に向いていると感じると怒りをぶつけるようになりました

学校や地域の子ども集会、様々なイベント、どこに行っても子どもというのは被写体になるもので、『面と向かっての写真撮影や、撮ることを意識する声掛けはなしで』とお願いして歩く日々。まるで芸能人のマネージャーのような母…何ともむなしい気持ち。

心配とむなしさもさることながら、ぎこちなくとも目一杯自分を表現することを楽んでいた息子を、一瞬のそれもたった一言で失ってしまった悔しさがいつまでも拭いきれません。

何とか彼の笑顔を取り戻したい一心で、『君の成長の記録を残したいんだ』『お母さんが見るだけだから』と、あの手この手で説得してやっと斜め後ろからの撮影が叶います。

次の機会に繋げたくて、その1枚を撮り終えたら『ありがとう。お母さんの宝物だよ。嬉しい。』と言葉に出して喜びを伝えるようにしていました。

救世主の登場

そんな日々が続いて、かれこれ5年…
長らく続く撮影拒否に半ば諦めがついてきた頃、我が家に救世主が現れましたっ…。

それは息子の『姉』

ある日、通勤電車に揺られる母に、娘から一通の動画メッセージが送られてきました。動画を開くと、そこに映っていたのは姉の隣でニコニコと自然体で笑う息子の姿。

あまりの驚きに電車の中で思わず『わっ‼』と声をあげそうになる母。家に着くなり姉に状況を聞くと、これまで考えもしなかった方法が…。

『自撮り撮影にして、私も隣で一緒に変顔とか面白い動きしてたら、(弟自身も)画面に映ることが楽しくなったんだよ。それに、私は嫌なことしないって信頼されてるから!(ドヤ顔)』

なんと…
・目的が撮影ではなく遊び
・撮影者がいない状況をつくる

なんて思いもよりませんでした。

他にも…

・信頼している相手×遊びのリラックス感
・画面で自分の表情をチェックしつつ、表情の模倣ができる対象がある。
・動画なので失敗した表情を切り取られるストレスが無い。
・変顔など笑顔以外の楽しみ方を知る。
・写真の加工アプリなどを使ってゲーム感覚を高める。

などなど、姉が取り入れた方法には息子の特性に対しての手助けが盛り沢山だった。

こんなにあっさりと自然体な息子の表情を撮影できたのか…と放心状態になりながらも、ただただ画面の中の笑顔が嬉しくて、泣き笑いしながら『お姉ちゃんありがとう』と何度も伝えました。

姉のファインプレーの甲斐あって、その後は不思議と家庭内での撮影に対して拒否感が薄れ、何とも若者らしい砕けた表情で撮影に応じるようになった息子。

集合写真の壁

しかしながら、中学生になった今でも学校の【集合写真】などでは相変わらずガチガチな表情になってしまいます。

気持ちが言語化できるようになった今、改めて写真が苦手なポイントを本人に聞くと

・集合写真は撮影までの待ち時間が長い
・指示が多い、上手くできない
・苦手なのに何枚も撮る
・自分の笑顔に自信が無い
・できあがった写真を見たくない
・遊びなどで夢中になっている時に、撮影に応じるよう言われ手が止まるのが嫌

というのが大まかな理由だそう。
確かに、集合写真の1枚目は何とか乗り切っていても、3枚目にもなるとカメラに向かって喧嘩を売ったような顔になっています(笑)

『まあ、必要最低限は我慢するよ。嫌なものは嫌だけどね〜(笑)』

と、本人なりに何とか折り合いをつけて参加できているようです。

「嫌・苦手」と向き合う

そんな息子の心の成長に感動しつつ、この先も『本人の【嫌・苦手】の感情を置いてけぼりにして、こちらの都合を押し付けてはいけない』と改めて腹に落としました。

だからと言って、嫌・苦手への対応を【諦める・避ける】の選択肢だけに狭める必要は無いとも思っています。

この先、何がきっかけで彼らが心から楽しめる世界が広がっていくのか可能性は未知数なのだから。

『こっち向いて』『笑顔で』じゃなくてもいいから、彼の大事な瞬間を一緒に大切にしていけたら…と、今は心からそう思えるのです。

この記事を書いた人
ちゃこ

高校生と中学生、2児の母。
子育ての経験を活かして、児童指導員や障がい児相談支援員など発達支援のお仕事に携わっています。

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